「顧客の本当のニーズをつかんでいる自信が持てない」
「機能開発の成功率が低い」
「チームメンバーと顧客像を共有しているつもりがすれ違っている」
こんな違和感や疑問を抱いたことはありませんか?僕もプロダクト開発に携わる中で、顧客像がぼんやりしているまま進めてしまい、実装後に「想定外」の結果を招いた経験があります。そんなときに銀の弾丸はなく、やるべきことは顧客解像度(顧客の課題・思考・行動を具体的に理解した度合い)を極限まで高めることです。
本記事では、僕がマーケ&プロダクトマネージャーの経験を経て意識しているプロダクトマネージャーが顧客解像度をチェックするための質問リストを紹介します。
顧客解像度が低いと何が起きるのか
顧客解像度が低い状態で開発を進めると以下のような問題が起きがち。
- 機能が多いだけ
- 代替手段が魅力的に見える
- ユーザー離脱の原因が分からない
とくにBtoB向けプロダクトでは、導入決裁者と実際に使う担当者のニーズが異なることが多く、顧客解像度がずれていると現場レベルの“本当の痛み”を拾いきれません。自社プロダクトの価値を押しつける形になり、評価されるどころか他の安いツールや既存の運用方法に流れてしまうこともあります。
逆に、顧客解像度が高いと以下のようなメリットを享受できます。
- 機能は少なくても刺さる
- ユーザーが使いたくなる理由が明確
- 新機能や改修に対するフィードバックサイクルが早い
Marty Cagan氏の著書『INSPIRED』では、顧客に愛されるプロダクトとは「ユーザーの問題を正しく理解したうえで、それをシンプルかつ強力に解決している」ことが大前提だと語られています。顧客理解が浅いと、どんな優れたテック技術を投入しても“的外れ”になるリスクが残るのです。

顧客の現状理解を深める:課題とインパクト
まずは、顧客が実際どんな課題を抱えているのか、その課題の重大度や具体的な影響を把握することが不可欠です。単に「不便さを感じている」程度の理解では弱いです。顧客の金銭的負担・時間的ロス・心理的ストレスまで定量/定性の両面で整理しましょう。
【質問リスト】
- そもそも、顧客の課題は何で、それはチーム全体が空で語っても一致するか?
- いつその課題が発生しているか?
- どんなタイミングで、何がトリガーとしてその課題が発生するか?
- 課題に対する現在の対処法や代替手段は何か?
- 課題放置でどんなリスクがあるか?
- 解決したらどんなメリットがあるのか?
- 解決に対して、ユーザーはどの程度のコスト(金銭的・時間的)を払っているか?
課題の深刻度や影響範囲を可視化するフレームワークとしては、「顧客課題マッピング」があります。例えば、
- 縦軸を課題の“頻度”や“発生タイミング”
- 横軸を“心理的ストレス度合い”や“金銭的コスト”
に設定し、顧客の声を整理するのです。顧客がどこに強い“痛み”を感じているかが一目で分かり、優先度を判断しやすくなります。
顧客行動と利用シーンの深掘り:モチベーションとコンテクスト
顧客行動を理解するには、実際の利用シーンを時系列や行動のプロセスで把握することがカギです。とくにBtoB領域ではシステムを使うタイミング、使った結果を社内でどう共有するのか、その後のフローまで押さえておく必要があります。
- プロダクトを使う「前後」で顧客がどんな準備・後処理をしているか?
- そのシーンで顧客の心理状態はどんなものか?
- 利用を阻害するもの(例:他のタスク、上司承認、ITリテラシーの壁)とは?
たとえば、顧客が週次レポートを提出しなければいけない状況を想定してみてください。プロダクトへのログイン自体は1分でできるかもしれませんが、その後にデータを抽出し、Excelにコピペし、指摘事項を上司とすり合わせて…と工程が多い場合があります。こうした周辺工程を吸い上げないと、本質的な“工数削減”に繋がる改善策は見えません。
社内での利用シーン理解をさらに詳しく学びたい場合は、ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイドも参考にしてください。インタビューで「作業の流れを画面共有してもらう」手法など、具体的なアプローチを解説しています。

顧客属性とセグメント分析:ズレを見逃さない
次に大事なのが「想定顧客」と「実在顧客」のズレを把握するためのセグメント分析です。よくあるケースとして、ペルソナを作ったものの、実際のユーザー行動がペルソナの想定を大きく外れていた…という話があります。
ここでは以下のポイントを押さえてください。
- 年齢、職種、企業規模などの“表面的属性”に加え、行動特性や心理的特徴を軸としたセグメントができないか?(ペルソナやセグメントが属性レベルで止まってしまっていないか)
- 「製品を購入・導入する人」と「使う人」が異なる場合、その関係性や重視ポイントはどう違うか?
- セグメント間で共通する課題と、まったく異なる課題の両方を洗い出せているか?
ペルソナやセグメントに関するより詳細なフレームワークは、「プロトペルソナ」の考え方で、新規事業・リニューアル・新機能でハズレを最小化するもご覧ください。まだ顧客情報が少ない段階での仮設計と、実際のインタビューでの検証方法も解説しています。

バリュープロポジションと競合比較:本当に選ばれる理由を再点検
顧客解像度を高めるうえで見落とせないのが「競合や代替案との比較」。自社製品だけを眺めていては、顧客が最終的にどんな選択肢の中から製品を選んでいるのか見えなくなります。
- 顧客にとっての代替策は何か?
(他社製品だけとは限らず、Excelや手作業も含む) - 自社製品を選ぶ価値は何か?
(機能的メリット、コスト、サポート体制など) - 今、この製品を導入する必然性は何か?
(緊急性、時流、技術トレンドなど)
たとえば、給与計算SaaSを販売している場合を考えます。競合は他の給与計算ソフトだけではありません。実際には「税理士にアウトソースする」「現状のオフライン管理を続ける」という選択肢もあるかもしれません。顧客解像度を高めたいなら、こうした代替案が持つメリット(安心感、低リスク、既存フローとの互換性)にも目を向ける必要があります。
具体的な比較検討のフレームワークとして、SWOT分析やベンチマークテストなどがありますが、PdMならまず顧客の声から直接引き出す方法が有効です。競合に対する印象や、他社サービスを実際に使ってみての感想をインタビューで聞くことで、表面的な数値比較では得られない洞察を得られます。
競合分析に関連したテクニックは、プロダクトの競合分析の質を徹底的に上げるために抑えておくべきポイントで詳しくまとめています。

プロダクトへの期待値・ゴールを把握する:実用面と感情面の両軸
顧客が何をゴールとしてプロダクトを導入し、どうなれば「うまくいった」と考えるのかを正確に捉えるのは意外と難しいです。売上アップや業務効率化などの定量面にばかり注目しがちですが、実は感情面のメリットが重要視されるケースもあります。
- 顧客はどんなKPIや業務指標を意識しているか?
- 顧客は誰と誰が、どんな会話や決済会議体を経て、何が決め手となって導入してくれたのか?
- 導入を決めた「本当の理由」は何か?
(組織での評価、上司の命令、現場のストレス緩和など) - 利用者と決裁者が別の場合、どの視点が最重視されるか?
たとえば、バックオフィス支援サービスだと、経営層は「人件費削減」や「迅速なレポート提出」を重視します。一方、実際に操作するスタッフは「日々の作業負荷軽減」や「ストレスがないUI/UX」を重視します。どちらも大事ですが、双方の視点を統合して初めて「導入後に評価されるプロダクト」となるのです。
顧客の声の取り扱いとインサイト抽出:定性と定量の合わせ技
顧客解像度を高めるには、定量データ(アクセス解析、利用ログ、アンケート結果など)と定性データ(インタビュー、観察調査、会話ログなど)をセットで活用するのが鉄則。数字だけ追っていると背景が読み取れないし、インタビューだけではサンプル数が足りず、大局感が得られないことがあります。
- 定量データで「何が起きているか」を把握する
- 定性データで「なぜ起きているのか」を深掘りする
インサイトを得るコツとしては、自分のバイアスに要注意です。都合のいい解釈をしてしまいがちなときは、複数人でインタビュー録画を見返す、他部署の視点を取り入れるなどの対策を取ります。【2025年】ユーザーインタビューで起こるバイアスを徹底攻略!の記事ではバイアスを取り除くための具体策もまとめています。

なお、インタビュー設計の深いノウハウが知りたい方は、ユーザーインタビューの質問項目大全や、ユーザーインタビュー前に「筋の良い仮説」をチームで設定する方法も参考にしてください。


顧客満足・継続利用の要因確認:ロイヤルユーザーを生む鍵
また、導入だけではなく、顧客に長く使ってもらうには、「継続利用のハードル」や「離脱のトリガー」を具体的に把握する必要があります。特にSaaSなどのサブスク型ビジネスでは、課金継続こそが売上の柱。離脱を防ぐには早期のオンボーディングから顧客が価値を実感する工程をしっかり設計することが重要です。
- 顧客が継続したくなるタイミングや理由は?
- どんな時に離脱したくなるのか?
(コスト、競合サービス、成果が出ない、サポート不満など) - 顧客の成功をどう定義し、測定するか?
PdMがこうしたデータを追いかけるだけでなく、実際に離脱理由を顧客本人にヒアリングすることで、定量では捉えきれない“感情”を掴むことも可能です。
まとめ:顧客解像度をチェックするための質問リスト
ここまでの内容を踏まえ、最後に「顧客解像度をチェックする質問リスト」をまとめます。各質問に答えられるかどうか、自社プロダクトと顧客の現状を擦り合わせながら確認してみてください。
カテゴリ | 質問例 |
---|---|
顧客の現状把握 |
|
行動と利用シーン |
|
セグメント・ペルソナ |
|
バリュープロポジション |
|
期待値・ゴール |
|
継続利用・離脱要因 |
|
仮説検証サイクル |
|
これらすべてに具体的な回答ができれば、顧客解像度は相当高いといえます。もし、明確な回答ができない項目があるなら、改めてユーザーインタビューやデータ分析を実施してみてください。
今日から実践できるアクション
- インタビューを設計する
まずは顧客解像度チェックリストの項目をもとに質問票を作成し、ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイドを参考に1人〜2人でもよいので早速ヒアリングを実施する。 - 顧客課題マッピングを行う
顧客がどのタイミングで最も大きなストレスを感じているか、横軸と縦軸を決めて可視化する。 - 既存顧客の“離脱”インタビュー
すでにサービスを解約したり契約更新を止めてしまった顧客へのインタビューを実施する。失注ユーザーへのインタビューこそ、最高の機会で方法を紹介しています。
Q&A
- Q1. 顧客解像度を高めるインタビューは何回ぐらいやればいいですか?
- A. 一般的には10〜15回ほどインタビューを重ねると、主要な共通パターンや繰り返し出てくる課題が見えてきます。ただし、サービスの複雑さやターゲットの幅によって異なるので、ある程度のサンプル数を確保しつつも、“飽和”の兆候が出るまで継続するのがおすすめです。
- Q2. BtoBの大企業向けサービスだと、現場担当に直接インタビューできないことも多いのですが?
- A. アプローチは確かに難しいですが、担当者の上司や導入責任者に「現場の声を聞きたい理由」を丁寧に説明して許可をもらうのが基本です。非公式なコミュニケーション(社内の飲み会や雑談ベース)を活用して現場ユーザーと接触した例もあります。BtoB領域のユーザーインタビューの難しさや実施方法を参照してください。
- Q3. 定量データがうまく取れない場合はどうすればいい?
- A. ログが取れないのであれば先に計測環境を整えたり、簡易アンケートでスモールデータを取得するのが手軽です。とはいえ、それが難しい場合でもインタビューや観察で定性的情報を集めるだけでも大きな学びがあります。スタートアップ時期などはまず定性ありきで十分効果が出るケースもあります。

参考情報
【書籍・論文・先行事例】
・Marty Cagan, INSPIRED: How to Create Tech Products Customers Love, Wiley, 2018.
・Ash Maurya, Running Lean, O’Reilly Media, 2012.
・Eric Ries, The Lean Startup, Crown Publishing Group, 2011.
・Rob Fitzpatrick, The Mom Test, CreateSpace Independent Publishing Platform, 2013.
・Nielsen Norman Group, “When to Use Which User-Experience Research Methods” (2014) などUXリサーチに関する複数のコラム
【当サイト関連記事】
・【要約】『INSPIRED』顧客に愛されるプロダクトを生むプロダクトマネジメントの極意
・プロダクトの競合分析の質を徹底的に上げるために抑えておくべきポイント
・ユーザーインタビューの質問項目大全:今日から使える具体質問例と定石
・「プロトペルソナ」の考え方で、新規事業・リニューアル・新機能でハズレを最小化する
・【要約】『Running Lean』で顧客開発を加速させる
・【2025年】ユーザーインタビューで起こるバイアスを徹底攻略!
コメント