この記事の要約
- ユーザーインタビューの質的データから、LLMを使ってはペルソナを作成する
- 作成方法のフロー、Tips、注意点を紹介
なぜLLMを使ったペルソナ生成が注目されるのか
ペルソナ構築は、インタビューログをチームで読み込みながら、ユーザーの属性や行動、課題を整理し、担当者の経験と知見を加味してまとめるプロセスが一般的でした。
しかし、インタビューログが膨大になり、要点抽出や合意に多大なリソースがかかります。また、担当者の主観に左右されやすい、見落としやバイアスが入りやすいなどの課題も存在します。
そこでChatGPTなどのLLMを活用すると、
- 短時間で要点を抽出:膨大なテキストを一括で要約し、特徴づけを自動で行う
- 複数視点の提示:単なる年齢や職業といったプロフィールだけでなく、感情・動機・心理的背景まで推察した出力が得られる
- チーム間の共通認識づくり:機械が一度まとめたうえで、人間がそれを検証・加筆修正するワークフローを作れる
このようなメリットがありますよね。
準備:インタビューログを扱いやすい形に整理する
まずは、ユーザーインタビューのログをLLMに入力するための準備を整えます。ここをしっかりやっておくと、ペルソナの自動生成がより正確になります。
- テキスト化(文字起こし)
音声や動画で記録したインタビューを正確に文字起こしし、余計なノイズを適度に排除する。
※チームでログを共有しやすいように、同じ形式(例えばスプレッドシートやMarkdownなど)に統一しておく。 - メタ情報の付与
– インタビュイーの基本属性(年齢、職業、利用年数など)
– どのプロダクト・機能を使っているか
– インタビュー日時、状況
など、後でLLMが「文脈として把握すべき情報」を分かりやすく含める。 - セグメント別に分類
ログがあまりにも大量の場合、ユーザー属性や利用状況などで分類しておくと、LLMに投入する際に「どのセグメントのインタビューか」を指定しやすい。
例:新規導入ユーザー / 長期利用ユーザー / 解約ユーザー など。 - 機密情報のマスキング
個人情報や企業秘密など、部外秘の情報を含むログは、最低限のマスキング処理を施してからLLMに渡す。
※サービス規約に基づいて、入力データが外部に保存されない設定やエンタープライズ向けLLMを利用することも検討する。
ステップ1:インタビューログから要点を抽出するプロンプト設計
次に、実際にLLMへ投げるプロンプト(指示文)を考えます。ここでは、「ペルソナ化の基礎情報を取り出す」ための要約を行うイメージです。
一気に「ペルソナを作って」と指示するのではなく、まずはログからキーワードや特徴を洗い出すためのステップを踏むのがおすすめです。
例:要点抽出のプロンプト文
「以下のユーザーインタビューログから、
1) インタビュー対象者が抱えている主な課題・ペインポイント
2) 利用状況(何をどのように使っているか)
3) 購買・利用動機
4) 期待している改善点
を箇条書きで整理してください。回答はできるだけ簡潔にまとめてください。ログは以下の通りです。」
このようにLLMに問い合わせると、ログ全体の中からキーワードや論点が自動抽出されます。もちろん、この時点での出力は、人間の目で
「そこはちょっと違うニュアンスなんだけど…」
と感じる部分があれば、ログを分割して指示し直したり、プロンプトを変えて再度要約をリクエストするなど、何度か試行することがポイントです。
ステップ2:抽出結果を踏まえて“ペルソナ”を生成する
要点抽出ができたら、次はいよいよ「ペルソナを生成する」ためのプロンプトを作成します。ここでは、抽出結果をLLMに再入力し、「ペルソナのプロファイルを文章化してもらう」ことを意図します。
例:ペルソナ生成のプロンプト文
「先ほど抽出してもらった①~④の情報をベースに、
- ユーザー属性(年齢、性別、職業、ライフスタイル)
- 製品利用背景・目的
- 日常の課題感、具体的なペインポイント
- 製品に期待する価値や改善要望
- 製品利用による心理的な変化
を含む人物像を“ペルソナ”としてまとめてください。
各ペルソナに短いニックネームをつけてください。」
LLMは、抽出した要点情報をもとに、ペルソナの姿を文章として描き出します。この際、複数ペルソナを同時に生成させることも可能です。
例:「新米ママのAさん」「趣味人のBさん」「ガジェット好きのCさん」…など。
ユーザーログを大量に含む場合や属性が明確に区分けできる場合は、ひとつのプロンプトで「複数のペルソナ」を作ってもらうのも方法です。
しかし、LLMに負荷がかかりすぎると誤回答やハルシネーションが増えることもあるため、複数回に分けて生成させる方が精度が高まりやすいです。
ステップ3:LLM出力を人間の視点で検証・修正する
当たり前ですが、出力結果に完全なる正解はありません。ユーザーインタビューの真意を把握するのは人間であるPMやリサーチャーの役目です。したがって、出力されたペルソナを、そのまま「これが完成版!」としないでください。
必ず以下の手順で検証しましょう。
- 原文ログとの突合せ
「本当にこの人がこんな課題を抱えていたのか?」を確認。捏造された内容やニュアンスのズレに気をつける。 - 定性・定量データとの比較
ログ以外に、顧客アンケートや行動ログデータがあるなら照合し、LLMの出力と食い違いがないかをチェックする。 - チームレビュー
マーケ・セールス・開発など多職種メンバーと共有し、リアリティを感じるか、疑問点はないか意見を集める。
このプロセスを経て、LLMが提示したペルソナがどの程度“生々しく”ユーザーの姿を捉えているかを判断します。もし抽象的すぎる部分や誤りがあれば、人間が補足情報を追加するなどして、最終ペルソナをブラッシュアップします。
実践Tips:精度を高めるためのコツ
より実用度の高いペルソナを得るために、以下のような工夫が有効です。
- 部分的なプロンプト分割
一度にすべてのインタビューログを読み込ませるのではなく、セグメントごと・テーマごとに区切って要約→ペルソナ生成→検証を繰り返す。精度が高まりやすい。 - 要素単位でのペルソナ作成
あらかじめ「ペルソナを構成する要素」を細かく定義し、LLMに指示する。
例:【属性】【課題・不満点】【利用背景】【モチベーション】【改善要望】など。 - 過剰なステレオタイプを排除
LLMは汎用的な文章を生成しやすい。極端に“それっぽい”属性が付与されるケースもあるため、実際のログに照らして不自然な部分は修正する。 - プロンプトエンジニアリングで補足指示
「数字や確度の高い引用箇所はそのまま引用するように」「回答が曖昧な場合は曖昧と記載するように」など具体的ルールを与えると、不要な“創作”が抑えられる。 - 再学習・継続イテレーション
一度ペルソナを作って終わりではなく、インタビューが増えるたびにログを追加し、LLMに再度プロンプトを与えてアップデートするサイクルを回す。
気をつけたいリスクと対策
LLMを使ったペルソナ生成は画期的な一方、以下のようなリスクがあります。
- ハルシネーション:
実際にログにない情報をLLMが勝手に作り出す。特にペインポイントや背景情報を「推論」してしまう傾向に注意。 - ステレオタイプバイアス:
トレーニングデータの偏りから、“典型的な”プロファイルばかり生成されてしまう危険。多様な属性や視点を重視したプロンプト作成が必要。 - 機密情報の扱い:
先述のように、サービス規約や社内ポリシーに沿って入力データを管理する。可能ならOn-Premise版のLLMやセキュアなAPIなどを利用する。
これらのリスクを最小化するには、「LLMに任せきりにしない」ことが重要です。必ずチームや担当者がレビューし、修正する段取りを組み込みましょう。
人間の洞察×LLMの要約力で、ペルソナづくりをアップデートする
ユーザーインタビューのログをそのままLLMに読み込ませることで、大量のテキストデータから要点を抽出し、迅速にペルソナを形成することが可能です。時間やコストを大幅に削減するだけでなく、人間だけでは見落としがちな複数の視点や文章表現を得られる点もメリットです。
しかし、LLM出力はあくまで“スタート地点”であり、そこから生まれたペルソナをどこまで現実に寄せられるかはPMやリサーチャー次第です。過度な一般化やハルシネーションを防ぐためにも、原文ログとの突合せやチームレビューを丁寧に実施し、精度を高めていく運用が不可欠。
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